3)師団/旅団の現況と編制
国防白書最新版(1999年版)によれば、現役歩兵師団/旅団が33個、教導師団が37個、機械化歩兵師団/旅団が25個、戦車師団/旅団が15個である。MB 1998〜1999年版によれば、北朝鮮現役歩兵師団が26個、独立歩兵旅団が3個、予備歩兵師団が26個、予備歩兵旅団が18個、自動車化歩兵旅団が24個、戦車旅団が15個である。
両資料間に若干の差異点があるが、下のように整理することができる。
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現役歩兵師団26+個(最小26個以上) |
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現役歩兵旅団3〜7個 |
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教導師団26+個(最小26個以上) |
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教導旅団10〜18個 |
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機械化歩兵旅団24〜25個(この内、数個は機械化歩兵師団である可能性もある。) |
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戦車旅団15個(この内、1個程度は戦車師団である可能性もある。) |
過去、一部公開資料において、北朝鮮の師団の大部分が旅団に改編されたという言及もあるが、以上の資料を見ると、旅団に改編されたものは、機械化旅団と戦車旅団のみで、歩兵師団は、今だ師団を主とする編制を維持しているのを見ることができる。教導師団と旅団は、一種の予備軍部隊に該当する。北朝鮮の機械化歩兵旅団は、他国の機械化歩兵旅団と比較すれば、装甲車保有数量が少ない
一方で、装甲車で補強された文字通り自動車化旅団に近い戦力である。MB資料には、北朝鮮の機甲及び機械化部隊は、全て旅団化されたものとして推計している。しかし、月刊北韓等の資料を見れば、平防司に戦車師団が所属しているという言及があることから、最小限1個以上の戦車師団は、存在する可能性もある。
現役師団の単体ナンバーは、現在、公開資料で言及されたことがない。帰順者や脱北者達の証言において散発的に確認できるだけである。ただ、現役歩兵師団が計26個ならば、少なくとも朝鮮戦争当時既に創設されていた歩兵師団の大部分は、今も存在する可能性が高い。下は、朝鮮戦争当時の北朝鮮の師団及び独立旅団級部隊の全体リストである。
部隊名称 | 創設経緯 | 休戦時の状態 | 備考 |
第1師団 | 价川保安幹部訓練所→1947.05?創設 | ||
第2師団 | 羅南保安幹部訓練所→1947.05?創設 | ||
第3師団 | 元山保安幹部訓練所→3混成旅団→1948.09?師団昇格 | ||
第4師団 | 4混成旅団→1949.?師団昇格 | ||
第5師団 | 旧中共軍第164師→1948.08北朝鮮軍に改編 | ||
第6師団 | 旧中共軍第166師→1948.10北朝鮮軍に改編 | ||
第7師団 | 旧38警備7旅団→1950.07師団に昇格 | ||
第8師団 | 旧38警備1旅団→1950.07師団に昇格 | ||
第9師団 | 旧38警備3旅団→1950.07師団に昇格 | ||
第10師団 | 1950.03創設 | ||
第12師団 | 旧中共軍混成→1950.05北朝鮮軍に改編 | ||
第13師団 | 1950.03創設 | ||
第15師団 | 1950.03創設 | ||
第16師団(機)? | 1950年中盤?創設 | ?解体 | |
第17師団(機)? | 1950年中盤?創設 | 1952.07解体 | |
第18師団 | 1950.08創設 | 1952.07解体 | |
第19師団 | 1950.08創設 | 1952.07解体 | |
第20旅団 | 1952.07創設 | ||
第21旅団 | 1952.07創設 | ||
第22旅団 | 1952.07創設 | ||
第23旅団 | 1950.08創設 | ||
第24旅団 | 1950.08創設 | ||
第25旅団 | 1950.08創設 | ||
第26旅団 | 1950.08創設 | ||
第27師団 | 旧27旅団→1950.12師団昇格 | ||
第31師団 | 1950.08創設 | 1952.07解体 | |
第32師団 | 1950.08創設 | 1952.07解体 | |
第36師団 | 1950.12創設 | 1952.07解体 | |
第37師団 | 1950.08創設 | ||
第38師団 | 1950.12創設 | 1952.07解体 | |
第41師団 | 1950.12創設 | 1952.07解体 | |
第42師団 | 1950.12創設 | 1952.07解体 | |
第43師団 | 1950.12創設 | 1952.07解体 | |
第45師団 | 1950.12創設 | ||
第46師団 | 1950.12創設 | ||
第47師団 | 1950.08創設 | ||
第63旅団 | 1950.12創設 | 1952.07解体 | |
第69旅団 | 1950.12創設 | 1952.07解体 | |
第77旅団 | 1950.12創設 | 1952.07解体 | |
第105師団(戦) | 旧105旅団→1950.06師団昇格 | 1952.07解体 |
朝鮮戦争に関する米韓両国の各種公刊史において確認可能な歩兵師団の総数は、28個である(16、17師団は機械化師団、105師団は戦車師団と知られていることから除外する。)。この28個という数字は、筆者が推定した現在の現役歩兵師団数26+個(最小26個以上)とほぼ一致する。従って、朝鮮戦争当時存在していた北朝鮮師団の大部分は、今も存在する可能性が高い。
上の表に登場する師団中において、18、19、31、32、36、38、41、42、43師団等、9個師団は、休戦時点(1953年7月)には、既に解体された状態だったことから、休戦当時、北朝鮮歩兵師団の総数は、19個師団である。従って、9個師団中の相当数は、休戦後再創設されたものと推定される。
@歩兵師団
北朝鮮の歩兵師団は、歩兵連隊3個と砲兵連隊1個を中心に編成されており、師団総兵力は、10,359名(将校1,333名、士兵9,026名)である。
砲兵連隊は、122mm曲射砲大隊3個と152mm曲射砲大隊1個で構成されている(各大隊18門保有)。
この外に、師団直轄で戦車大隊(戦車31台保有)、対戦車大隊(D、M-44対戦車砲12門保有)、対空砲大隊(対空砲18門)、工兵大隊、通信大隊、化学大隊が編成されている。
この図表通りとすれば、指弾の特殊戦力としては、偵察中隊のみが編成されている。「北韓軍事論」や「NKSF」等の公開資料によれば、師団直轄で軽歩兵大隊が編成されているというが、この図表上に軽歩兵大隊が見えない点は疑わしい。
図表を見れば、上段第1列左から3番目に歩兵大隊記号が見えるだろう。図表下段も見れば、Line Bn(前線大隊?)という英文略称が見える。歩兵連隊に隷属しない師団直轄の独立歩兵大隊ならば、
一体何を意味するのだろうか?これが軽歩兵大隊を意味するのでなければ、DMZを管轄する警戒部隊である民警大隊を意味するものと推定される。
A歩兵師団砲兵連隊
左側の図表は、師団砲兵連隊の編制表である。北朝鮮師団砲兵連隊は、122mm砲兵大隊3個と152mm砲兵大隊1個で構成される。
B機械化歩兵旅団
この資料通りとすれば、北朝鮮の機械化歩兵旅団は、戦車大隊1個(戦車31台)、機械化歩兵大隊1個(装甲車46台)、自動車化歩兵大隊4個、122mm自走砲大隊1個(自走砲18門)、152mm自走砲大隊1個(自走砲18門)等で構成されている。
英国IISSのMBでは、北朝鮮の軍事力規模を推計するとき、機械化歩兵旅団(Mechanized Infantry Brigade)ではなく、トラック機動歩兵旅団(Truck Mobile Infantry Brigade)という用語を使用する。何故MBにおいてトラック機動歩兵旅団という用語を使用したのかは、この図表を見れば明らかである。
左で見られる通り、名前は、機械化歩兵旅団だが、機械化歩兵大隊は1個のみで、残り4個は、自動車化歩兵大隊という点が最も大きな特徴である。下段で見られる通り、自動車化歩兵大隊は、装甲車の代わりに2.5tトラック37台を保有
した文字通り「自動車化」大隊でしかない。
旅団直轄部隊として、対空砲大隊(対空砲18門)、対戦車大隊(対戦車ミサイル搭載装甲車9台/対戦車砲12門)が編成されており、この外に、機甲偵察中隊、放射砲中隊(放射砲6門)、工兵中隊、化学中隊、通信中隊等が編成されている。
機甲偵察中隊は、PT-76系列軽戦車3台、BTR-60系列装輪式装甲車7台、M-72オートバイ8台を保有している。
C戦車旅団
戦車旅団は、戦車大隊4個、軽戦車大隊1個、機械化歩兵大隊1個、自走砲兵大隊2個で構成されている。図表上段には、自走砲兵大隊が1個とされているが、図表下段を見れば、152 Reg(152mm砲兵連隊)が追加で見える。保有台数が18門であることから、砲兵大隊の誤記と考えられる。
戦車大隊は、小隊3台、中隊10台、大隊31台体制だが、軽戦車大隊は、小隊3台、中隊10台、大隊40台体制である。軽戦車大隊の場合、中隊以下は、戦車大隊と編成方式が同一だが、大部分に軽戦車10台を保有している。
この外に、旅団直轄で対空砲大隊、工兵中隊、化学戦、技術支援大隊等が編成されている。
D戦略水準重砲兵旅団(砲兵軍団所属砲兵旅団)
4)歩兵連隊、大隊、中隊、小隊、分隊
北朝鮮の歩兵部隊は、連隊と大隊に全ての重火器を集中し、中隊以下は、非常に軽快に編制されたことが最大の特徴である。中隊以下梯隊では、典型的な三角編制を採択している。
@歩兵連隊
北朝鮮の歩兵連隊は、歩兵大隊3個、120mm迫撃砲大隊1個、放射砲中隊1個、対空砲大隊1個、偵察小隊、対戦車砲隊、工兵中隊、通信中隊、化学小隊で構成されており、連隊の総兵力は、2,379名(将校182名、士兵2,197名)である。
北朝鮮の歩兵連隊は、放射砲9門を保有する放射砲中隊と120mm迫撃砲27門を保有する迫撃砲大隊が編制されている等、歩兵連隊全体の支援火力が比較的強力
な方である。
A歩兵大隊
北朝鮮の歩兵大隊は、歩兵中隊3個、82mm迫撃砲中隊1個、AT-3対戦車ミサイル小隊1個で構成されている。
歩兵大隊の総兵力は、476名(将校29名、士兵447名)である。
B歩兵中隊、小隊、分隊
歩兵分隊は、12名で構成され、RPD軽機関銃を携帯した軽機射手3名、RPG-7とAK小銃を携帯する発射管手2名、AK小銃を携帯した一般小銃手9名で構成される。
このような歩兵分隊3個が集まって、兵力37名の歩兵小隊を構成し、歩兵小隊3個が集まって、兵力116名の歩兵中隊を構成する。
北朝鮮の歩兵中隊と歩兵小隊は、完全な三角編制で構成されており、火器小隊や火器部隊のような別途の火力支援梯隊がない。北朝鮮の中隊級以下梯隊では、迫撃砲や重機関銃のように歩兵が人力で携帯
するのが困難な重火器を全く保有していない。実戦では、中隊級作戦が不可避なことから、この場合、重火器を中隊や小隊に配属
するかどうかはともかく、相当特異な編成だといえる。
5)戦車大隊/機械化歩兵大隊/砲兵大隊
北朝鮮の戦車大隊は、大隊31台のソ連式三角編制戦車大隊編成に従っており、砲兵大隊は、大隊18門の世界各国の普遍的砲兵大隊編成モデルに従っている。
@戦車大隊、中隊、小隊
北朝鮮の戦車大隊は、小隊3台、中隊10台、大隊31台(大隊本部1台含む。)の旧ソ連式三角編成に従っている。
A機械化歩兵大隊、中隊、小隊
北朝鮮の機械化歩兵大隊は、機械化歩兵3個中隊(中隊当たり装甲車10台保有)、82mm自走迫撃砲中隊(82mm迫撃砲搭載装甲車10台保有)で構成されている。大隊本部の装甲車3台と対戦車小隊のAT-3/4系列対戦車ミサイル搭載装甲車3台を含めて、機械化歩兵大隊全体の装甲車保有数量は、計46台である。
B砲兵大隊
北朝鮮の砲兵大隊は、中隊6門、大隊18門の全世界の標準的な砲兵大隊編制基準に従っている。
最終更新日:2003/05/25